おれはね,いつも言葉に洗われるんだ。目からはいって脳を伝って,指先から流れ出ていく。

9冊目 永遠も半ばを過ぎて 中島らも

どうも梅雨が苦手だ。
細かく雨の予報を見て,今降ってないし,夜まで降らない予報だからと傘を置いて出ると数分後から降り始めたりする。
今月だけで三回傘を持ってない時に降られた。
もう一回は傘をパクられて濡れた。
折り畳みを持てばいいとかじゃない。
雨が降らなきゃいいんだ。

病院の帰りに雨に降られて,図書館に逃げ込み,手に取ったのがこれ。
ずっと昔に読んだことはあるけど,もう覚えていなかった。

写植を仕事にしてて一日中文字打ってる主人公のところに高校の同級生(全然親しくなかった)が転がり込んできて,こいつが詐欺師をやっててそれに巻き込まれていく。
そいつの持ってた睡眠薬をかじってビールを飲みながらいつも通り仕事をしていたら無意識下で奇妙な文章を書くようになってしまう。
それが「永遠も半ばを過ぎて」。
これで儲けようぜってことで詐欺師と一緒に売り込みに行ったりする話。

中島らも作品ほとんどに通ずる「酩酊状態の文字の洪水が美しい」小説。
本当にこの人天才だから,やっぱり中島らもに憧れて酒やっちゃうとか薬やっちゃうとかは致し方ないことだと思う。
だけどあんまそういうの聞かないな(私がらも全盛期まだ子供だっただけでよくあったのかも)

毎日毎日沢山の,文学作品や,折込チラシや,テロップや,節操のない文章をとにかく打ちまくる。
頭で記憶なんかしない。
目からはいった情報を手から出しているだけ。
洪水のような言葉に洗われていく。
そうして自分には何にも残ってはいないと思っていたところ,睡眠薬のパワーで体の中に蓄積された純度の高い言葉が紡ぎだされていく。
これは本当に,読書を沢山していて,小説を書こうとしている人とかは涙が出ちゃうんじゃないかな。
自分の中にもこんな風に言葉が眠ってないか,なんかの拍子にあふれ出てきてくれないか,そんなことをいつも考えている人からしたら,中島らもの天才っぷりは本当に本当に悔しいよな。
これ,ほぼノンフィクションだもん。
素の頭が抜群に良くて,センスもあって教養もあって,ものすごく博識で,でも繊細すぎて世の中に適応できないから,酩酊状態の時だけ天才でいられるんだよね。
あーなんで死んじゃったんだ中島らも。
言葉をざるで濾していたら,いつの間にか砂金が集まりましたってのが「永遠も半ばを過ぎて」で,こんな風に自分の中にも「永遠も半ばを過ぎて」が出来ていっている,いつか目を覚ます,と,思ってしまいそうになるご本でした。

あんまり覚えてなかったけどタイトルと言葉の洪水と,続けているといつか自分にも謎のパワーが溜まっていくに違いないみたいな気持ちを思い出したので結構影響を受けていた本なのかも知れない。

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